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大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)159号 判決

原告

上本広信

被告 A外五名

右六名訴訟代理人弁護士

川田祐幸

主文

一  被告A及び同Bは、各自、吹田市に対し、四三万五〇九六円及びこれに対する平成八年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本件訴えのうち、被告らに対し別紙一覧表①ないし⑦記載の各懇談会の支出に係る損害賠償を求める部分、被告F及び同Dに対して同一覧表⑧及び⑨記載の各懇談会の支出に係る損害賠償を求める部分、被告B、同D及び同Eに対して同一覧表⑩及び⑪記載の各懇談会の支出に係る損害賠償を求める部分をいずれも却下する。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告A及び同Bの、その余を原告の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、吹田市に対し、各自一四八万四〇〇四円及びこれに対する平成八年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

本件訴えのうち別紙一覧表①ないし⑦記載の支出に係る部分をいずれも却下する。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、肩書地に居住する吹田市の住民である。

被告らは、平成六年五月から平成八年七月ころまで、それぞれ被告Aは吹田市長、被告Bは同助役、被告Cは同収入役、被告Dは同秘書長、被告Eは同秘書課長、被告Fは同市議会事務局庶務課長の職にあった者である。

2  吹田市において、平成六年五月一六日から平成八年六月二八日までの間に、別紙一覧表①ないし⑪のとおり、各「日時」及び「場所」欄記載の日時・場所において、各会合又は宴会が行われ、そのため、それぞれそのころ、「支出金額」欄記載の金員が、吹田市の公金から支出された(以下、右各支出を「①支出」、「②支出」などといい、これらの各支出を併せて「本件各支出」という。)。

3  被告らは、本件各支出に係る支出負担行為、支出命令及び支出につき、本来的な権限又は専決の権限を有していた。

4  しかし、本件各支出は、いずれも、吹田市の事務を処理するために必要な経費とはいえないものに対する支出であって、地方自治法(以下「法」という。)二条一三項に反する違法なものであり、吹田市は、これにより、本件各支出の合計額と同額の一四八万四〇〇四円の損害を被った。

5  原告は、平成八年一〇月一一日、吹田市監査委員に対し、本件各支出について、その是正を求める住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした。しかし、同監査委員は、同年一一月二七日、原告の監査請求のうち、①ないし⑦支出に係る監査請求は法二四二条二項に定める期間を経過しており、⑧ないし⑪支出に係る監査請求は理由がないと判断し、同日、その旨を原告に通知した。

6  よって、原告は、本件各支出についての財務会計行為に関与した当該職員である被告らに対し、法二四二条の二第一項四号前段の規定に基づき、吹田市に代位して、吹田市に一四八万四〇〇四円及びこれに対する平成八年一二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  被告らの本案前の主張

1  本件各支出のうち①ないし⑦支出は、別紙一覧表①ないし⑦の各「日時」欄記載の日時の後間もなく、すなわち、平成六年五月一六日ころから平成七年六月一四日ころまでの間に行われたものであり、本件監査請求のうち①ないし⑦支出に係る部分は、右各支出があった日から法二四二条二項所定の一年を経過した後のものであって不適法である。

2  よって、本件訴えのうち①ないし⑦支出に係る部分は、適法な監査請求を経ていないから不適法である。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実のうち、本件各支出に関する財務会計行為につき、被告A及び同Cが本来的な権限を有していたこと、被告坂本が①、⑥、⑧及び⑨の各支出に係る支出負担行為について、被告Dが①、③ないし⑤の各支出に係る支出負担行為について、被告Eが①ないし⑨の各支出に係る支出命令について、被告Fが⑩及び⑪の各支出に係る支出命令について、それぞれ専決の権限を有することは認め、その余の事実は否認する。

3  同4は争う。

4  同5の事実は認める。

四  被告らの本案前の主張に対する反論

1  原告は、新聞等の報道によって、他の地方公共団体の官官接待、カラ出張、公金汚職などを知り、吹田市においても同様の違法な公金支出のある可能性に初めて気付いた。地方議会議員や監査委員でさえ、これらの不正な支出を見逃してきたのであるから、一般の市民にとって、このような事実を知ることは不可能であった。

2  原告は、吹田市の公文書公開制度により公金支出に関する公文書の公開を請求した①ないし⑦支出の存在を知り、ただちに本件監査請求をしたが、①ないし⑦支出の当時、情報公開制度はあまり一般化していなかった。

3  したがって、①ないし⑦支出のあった日から本件監査請求までに一年を経過したことについて、正当な理由がある。

五  被告らの主張

1  本件各支出に至った会合等の各日時・場所は別紙一覧表のとおりであり、その出席者、会議内容及び支出金明細等は、次のとおりである。

(一) ①支出について

(1) 出席者(合計三名)

吹田市助役、吹田市市長室長、連合大阪吹摂協議会議長

(2) 会議の内容

労働団体の議長との間で、市内各事業所における高齢者・障害者・女性の積極的な雇用対策を推進するに当たって新たに採るべき方策、中小企業・自営業の従業員の福利厚生の支援のために採られた施策の実効性及び今後採るべき方策などが主に協議され、右議長から提言を受けた。

(3) 支出金明細

飲食代(料理代八〇〇〇円×三名、飲物代合計六〇〇〇円)

三万〇〇〇〇円

サービス料 三〇〇〇円

税金 一九八〇円

手みやげ(クッキー二五〇〇円×二名、消費税一五〇円) 五一五〇円

運転手食事代(七〇〇円、消費税二一円) 七二一円

合計 四万〇八五一円

(二) ②支出について

(1) 出席者(合計六名)

吹田市長、吹田市教育委員、吹田市市長室参事、財団法人吹田市健康づくり推進事業団理事長、北海道東北開発公庫副総裁(元大蔵官僚)、元中国管区警察局長

(2) 会議の内容

主として、厳しい財政状況下における吹田市の人口の高齢化による行政需要の増大に対して最大の効果を得るために今後市が採るべき方策、青少年の健全な育成、今後の景気の動向及び安定した政策実現について財政上特に配慮すべき問題点につき有識者から指摘を受けるなどした。

(3) 支出金明細

飲食代(料理代一万五〇〇〇円×六名、飲物代合計二万一一〇〇円)

一一万一一〇〇円

サービス料 一万七七一五円

税金 八一四八円

手みやげ(佃煮詰合五〇〇〇円×四名、消費税六〇〇円)二万〇六〇〇円

たばこ代 四六〇円

運転手飲食代 七〇〇〇円

合計 一六万五〇二三円

(三) ③支出について

(1) 出席者(合計三名)

吹田市助役、衆議院議員政策秘書二名

(2) 会議の内容

吹田市においては、当時、(イ)都市計画道路(佐井寺片山高浜線)、(ロ)吹田西公園(仮称)地下駐車場の整備、(ハ)公共下水道事業の整備及び流域下水道などの事業につき、事業認可を得て、その財源を確保する必要に迫られており、これらの点について、吹田市助役の被告Bは、政府・建設省その他省庁に対する要望、陳情するため上京した。その際、地元から選出された国会議員の秘書とこれらについての事前の打ち合わせをし、翌日、要望及び陳情の後、更に、右秘書らと会合し、事後の整理及び今後の進め方についての協議を行った。

(3) 支出金明細

六月八日分(六本木瀬里奈)

飲食料(三名合計四万七六五〇円、サービス料四七六〇円、税金三一四四円) 五万五五五四円

六月九日分(銀座ハゲ天)

飲食料(三名合計一万〇一九七円(税サービス料含)) 一万〇一九七円

合計 六万五七五一円

(四) ④支出について

(1) 出席者(合計一〇名)

吹田市長、吹田市助役、吹田市市長室長、吹田市市長室参事、元吹田市議会議長等四名、元吹田市収入役、財団法人吹田市健康づくり推進事業団理事長

(2) 会議の内容

元市議会議長等の職にあった者で、現在も吹田市において各々自治振興に精力的に取り組んでいる者から市政についての忌憚のない意見・提言を聞くために会議を行った。急速に高齢化が進む中、高齢者にとっては、身近な地域で情報の提供や相談の充実が必要であることから、計画的に建設を予定しているコミュニティセンターを福祉等の拠点として地域の様々な関係者との連絡を深めるネットワークの要とするため、その運営方法等について意見を聞く必要があり、(イ)地域における医療の需要に対する地域保健医療体制の整備と地域における健康・保健事業、(ロ)高齢社会の進行の中での予防医学として、特に寝たきり予防観点からの健康づくり、(ハ)住民自治を前進させるための効果的な施策の提言などについて意見を聞いた。

(3) 支出金明細

飲食代(料理代六〇〇〇円×一〇名、飲物代一万一一五〇円)

七万一一五〇円

サービス料 七一一五円

税金 四六九四円

運転手食事代(一三〇〇円×三名、消費税一一七円) 四〇一七円

手みやげ(クッキー一八〇〇円×五名、消費税二七〇円) 九二七〇円

合計 九万六二四六円

(五) ⑤支出について

(1) 出席者(合計三名)

吹田市長、地元関係者、地権者

(2) 会議の内容

養護学校の誘致問題について、地権者及び地元関係者への協力依頼その他当該学校誘致に向けての意見交換を行った。大阪府教育委員会が知的障害児を対象とする府立高槻養護学校の大規模化を解消し、適正化を図るために、吹田市内に府立養護学校を新設するのに伴い、府立養護学校建設予定用地を早急に確保する必要があった。

(3) 支出金明細

飲食代(室料三五〇〇円、料理代一万四〇〇〇円×三名、飲物代三八〇〇円) 四万九三〇〇円

サービス料 八五二〇円

税金 三九一八円

手みやげ(昆布詰合二八〇〇円×二名、税金一六八円) 五七六八円

たばこ代、電話代 四五〇円

運転手食事代 七五〇〇円

合計 七万五四五六円

(六) ⑥支出について

(1) 出席者(合計五名)

吹田市長、吹田市助役二名、前吹田市議会正副議長

(2) 会議の内容

吹田操車場跡地利用、国民体育大会等の政治課題について、長と議会の緊密な連絡と意思の調整を図るに当たり、議会関係者との間で自由な意見交換を行った。

(3) 支出金明細

飲食代(料理代一万六〇〇〇円×五名、飲物代合計一万五一〇〇円)

九万五一〇〇円

席料 九五一〇円

サービス料 一万九〇二〇円

税金 七四一六円

ガレージ代 一五〇〇円

たばこ代 四六〇円

手みやげ代(昆布詰合三〇〇〇円×二名、消費税一八〇円) 六一八〇円

運転手・随行員食事代(一六〇〇円×(四名+二名)) 九六〇〇円

合計 一四万八七八六円

(七) ⑦支出について

(1) 出席者(合計三名)

吹田市長、政治評論家、元吹田市長公室長

(2) 会議の内容

国政における枠組みの変革、経済面でのバブル崩壊等が吹田市財政運営に与える影響と対応策並びに厳しい財政状況下における今後の国・大阪府との良好な関係を保ちながらの施策の展開に関して将来の見通しと問題点について意見交換を行った。

(3) 支出金明細

飲食代(料理代一万六〇〇〇円×三名、飲物代合計一一五〇円)

四万九一五〇円

席料 四九一〇円

サービス料 九八二〇円

税金 三八三二円

手みやげ(昆布詰合五〇〇〇円×二、消費税三〇〇円) 一万〇三〇〇円

運転手・随行員食事代(二名合計一万〇五〇〇円、消費税三一五円)

一万〇八一五円

合計 八万八八二七円

(八) ⑧支出について

(1) 出席者(合計一二名)

吹田市長、吹田市助役二名、吹田市企画推進部長、吹田市議会事務局長、吹田市市長室参事、吹田市操車場特別委員会正副委員長、旧国鉄清算事業団の理事長、用地企画部部長、近畿支社長、近畿支社副支社長

(2) 会議の内容

旧国鉄清算事業団の理事長らが大阪を訪問した際、吹田市の街づくりという観点から旧国鉄吹田操車場の跡地利用の問題について、市長から吹田市の意向を関係機関の職員に要望し、協議を行った。

(3) 支出金明細

飲食代(料理代一万六〇〇〇円×一二名、飲物代合計四万二六五〇円)

二三万四六五〇円

席料 二万三四六〇円

サービス料 四万六九二〇円

税金 一万八三〇〇円

手みやげ(昆布詰合三〇〇〇円×六名、消費税五四〇円)一万八五四〇円

運転手・随行員食事代(事業団四名、吹田市五名) 二万五一〇〇円

たばこ代(二個) 四八〇円

ガレージ代 三五〇〇円

合計 三七万〇九五〇円

(九) ⑨支出について

(1) 出席者(合計八名)

吹田市長、吹田市教育委員長職務代理者、吹田市市長室参事、関西大学理事長、同学長、前北海道東北開発公庫副総裁(元大蔵官僚)、元中国管区警察局長、財団法人吹田市健康づくり推進事業団理事長

(2) 会議の内容

平成七年度の特別減税により市税収入が減収する状況下で、市の政策課題の整理及び今後の方策について各界有識者との間で、自由な意見の交換を行った。

(3) 支出金明細

飲食代(料理代一万六〇〇〇円×八名、飲物代合計九九〇〇円)

一三万七九〇〇円

席料 一万三七九〇円

サービス料 二万七五八〇円

税金 一万〇七五六円

手みやげ(昆布詰合三〇〇〇円×六名、消費税五四〇円)一万八五四〇円

たばこ代 六六〇円

運転手食事代(二〇〇〇円×二名)

四〇〇〇円

合計 二一万三二二六円

(一〇) ⑩支出について

(1) 出席者(合計一一名)

吹田市議会正副議長、前吹田市議会正副議長、吹田市議会事務局長、吹田市議会事務局議事課長、吹田地方新聞協会に加入する五社の代表である地方紙記者五名

(2) 会議の内容

平成八年六月に吹田市議会において役員の改選が行われたが、新役員の就任に際して、報道関係者と市政全般についての意見交換を行った。

(3) 支出金明細

飲食代(料理代七〇〇〇円×一一名、飲物代合計一万八五八〇円)

九万五五八〇円

サービス料 九五五八円

税金 六三〇八円

運転手食事代(二〇〇〇円×二名、消費税一二〇円) 四一二〇円

合計 一一万五五六六円

(一一) ⑪支出について

(1) 出席者(合計一〇名)

吹田市議会正副議長、前吹田市議会正副議長、吹田市議会事務局長、吹田市議会事務局次長、日刊記者クラブに加入する六社のうち四社の日刊紙記者四名

(2) 会議の内容

平成八年六月に吹田市議会において役員改選が行われたが、新役員の就任に際し、報道関係者と市政全般についての意見交換を行った。

(3) 支出金明細

飲食代(食事代七〇〇〇円×一〇名、飲物代合計一万五〇八〇円)

八万五〇八〇円

サービス料 八五〇八円

税金 五六一四円

運転手食事代(二〇〇〇円×二名、消費税一二〇円) 四一二〇円

合計 一〇万三三二二円

2  本件各支出は、次のとおり、妥当、適法なものである。

交際費とは「一般的に、対外的に活動する地方公共団体の長その他の執行機関が、その行政執行のために必要な外部との交際上要する経費で、交際費の予算科目から支出される経費」である。地方公共団体も一個の社会的実在として、上級行政機関の公務員その他の外来者に対して、社会通念上相当と認められる範囲の接待をし、あるいは、それらの者との会合に際して相当と認められる範囲の飲食をして、これに要する経費を負担すること自体は、もとより許容されている。

本件交際費の支出の原因となった会合等の実施年月日、実施場所、会合の内容、出席者、支出金額については前記のとおりである。これらは、その時々における吹田市の行政全般における政策課題等について、関係行政機関との協議を行い、各界有識者からの意見・提言を受け、関係上級官庁に対する陳情のための準備を行い、又は市議会の役員改選後の円滑な議会運営の確保を図ること等を目的として行った。出席者は、いずれも、社会的に相当な地位にあり、吹田市の行政執行についての貴重な意見、提言をし、又はこれを受け得る経験と識見を有する者である。懇談会実施の場所についても、「芝苑」は大阪府をはじめ府下各市町村等が利用する場所であり、「大川」は吹田市内の一般的な料亭であり、オオサカサンパレスは大阪府が全額出資をする財団法人大阪勤労者職業福祉センターが経営するホテルであり、シティプラザは大阪府市町村共済組合の経営にかかるホテルであり、いずれも、特別に高級な場所ではなく、出席者の社会的立場に対する配慮と、静かで会合の目的とする意見交換等が十分にできる場所を選択したに過ぎない。その支出の内訳も、飲食と、ごく普通の手土産のみで、芸妓の同席もないし、二次会等もなく、不要、不適切な遊興の類は一切ない。

このように、会合の内容の重要性と出席者の社会的地位等からすれば、本件各支出は、いずれも、違法でないだけでなく、適切なものである。

六  被告らの主張に対する認否

1  本件各支出は、吹田市の事務やその執行機関の権限に属する事務を処理するために必要な経費に該当せず、吹田市の負担に属する経費にも該当しないもので違法である。

(一) ①支出については、特定の労働運動団体とだけ市役所外で話し合う必要はなく、このような会合自体市民の疑惑を招く。

(二) ②支出については、その出席者の多くが⑨支出の出席者と重複しており、出席者の選定に恣意性がある。また、特定の目的がない上、出席者は目的に相応しい者ではなく(財団法人吹田市健康づくり推進事業団は実質的には吹田市と同視できる団体であり、また、北海道東北開発公庫副総裁や元中国管区警察局長は、吹田市の財政に助言する者として相応しくない。)、実際には会合というより接待であって、このような雑談に一人当たり二万円もの費用を支出するのは、違法である。

(三) ④支出については、市内有識者といいながら、出席者はすべて吹田市の関係者であり、交際費ではなく食料費を用いるべきであり、また、市役所外で会合を行う根拠もない。

(四) ⑤支出については、土地の買収に関して料亭を用いると市民の疑惑を招くことになり、許されない。また、⑤支出がされた当時、養護学校敷地を所有していたのは吹田市土地開発公社であり、地権者の接待は不要である。

(五) ⑥支出については、そもそも、議会と執行部とが独自の立場を有するという自覚を欠く上、交際費ではなく食料費で賄われるべきものである。また、その目的も具体性がなく、市役所外でされるべきものではなく、このような会合のために一人当たり約三万円の支出をするのは違法である。

(六) ⑦ないし⑨の各支出は、いずれも一人当たり三万円近くの支出となっており、社会的儀礼として相当な範囲を逸脱している。特に、⑦支出については、その会合の目的に具体性がなく、市長の純然たる私的な費用として支出すべきである。

(七) ⑩⑪の各支出については、記者クラブの在り方自体に問題があり、このような酒席を設けることによりマスコミの報道姿勢に悪影響を及ぼすおそれがある。現に、吹田市の広報誌的な地方紙さえ見られる。

2  同2は争う。

理由

一  請求原因1、2、5の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告らの本案前の主張について検討する。

1  法二四二条二項本文は、普通地方公共団体の執行機関・職員の財務会計上の行為は、たといそれが違法・不当なものであったとしても、いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとしておくことが法的安定性を損ない好ましくないとして、監査請求の期間を定めた。しかし、当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ、一年を経過してからはじめて明らかになった場合等にも右の趣旨を貫くことが相当でないことはいうまでもない。そこで、同項但書は、「正当な理由」があるときは、例外として、当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過した後であっても、普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるとしたのである。したがって、右のように当該行為が秘密裡にされた場合には、同項但書にいう「正当な理由」の有無は、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものといわなければならない(昭和六三年四月二二日最高裁第二小法廷判決・判時一二八〇号六三頁)。

2  そこで、本件について財務会計上の行為が住民に隠れて秘密裡にされたかどうかを検討すると、前記一の争いがない事実、証拠(甲一ないし二二、乙一ないし八、一三ないし二四。いずれも枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

(一)  原告が、本件各支出について監査請求をしたのは、平成八年一〇月一一日であり、①ないし⑦の各支出があったのは平成六年六月一〇日から平成七年七月二〇日までの間であって、右各支出から一年を経過した後である。

(二)  ①ないし⑦の各支出は、いずれも、吹田市の一般会計予算の歳出のうち、総務費(款)、総務管理費(項)、一般管理費(目)、交際費(節)の一部として支出されたもので、支出負担行為、支出命令及び支出につき順次各担当者の書面による決裁を経たもので、予算執行のための各決裁伺書、各支出命令書においても、その具体的な使途等がその都度概ね正確に記載されていた。右の各支出は、このように、通常の予算の執行としてその手続に則ってされたもので、吹田市において、住民に対して、特に隠ぺいされたなどの事情はなかった。

(三)  原告は、平成八年ころ、全国の地方公共団体における官官接待、いわゆるカラ出張、公金汚職などが報道で大々的に取り上げられるようになったことから、吹田市における交際費の支出の状況に興味を持つようになり、吹田市の公文書公開条例に基づいて、吹田市の交際費に関する公文書の公開を請求し、公開された公文書によって、①ないし⑦の各支出を含む本件各支出を知るに至り、同年一〇月一一日、本件住民監査請求に至った。

3  以上の事実によれば、①ないし⑦の各支出は、吹田市における通常の予算の範囲内で、通常の手続・決裁を経て支出されたものであって、これらの支出に係る決算を市議会の認定に付さなかったなど右各支出その他の財務会計上の行為が住民に隠れて秘密裡に行われたということはできない。

4  また、①ないし⑦の各支出があった後、一年を経過する前に監査請求をすることができなかったことについて、正当な理由となる事情は、本件証拠を検討しても、他にも認められない。

5  そうすると、①ないし⑦の各支出については、法二四二条二項所定の監査請求期間を徒過したもので、本件訴えのうち①ないし⑦の各支出に係る部分は、適法な監査請求を経たものとはいえず、いずれも不適法であるというほかはない。

三  ⑧ないし⑪の各支出についての訴えの被告適格について検討する。

1  ⑧ないし⑪の各支出についての訴えは、法二四二条の二第一項四号前段所定の「当該職員」に対する損害賠償の請求として提起されたものと解されるところ、右「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味し、その反面およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者はこれに該当せず、その者に対する訴えは、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えであって、結局、被告適格を欠く不適法な訴えといわざるを得ない(昭和六二年四月一〇日最高裁第二小法廷判決・民集四一巻三号二三九頁参照)。

2  そこで、本件についてこの点を検討すると、⑧ないし⑪の各支出につき、法の規定上、被告Aは、長として各支出命令の権限を(法二三二条の四第一項)、被告Cは収入役として支出の権限を(法二三二条の四)を有していることは明らかであり、更に、⑧、⑨の各支出につき、吹田市事務処理規程一五条により、被告Bが助役として支出負担行為の専決権限を、同規程及び吹田市財務規則等により、被告Eが市長室秘書課長として支出命令についての専決権限をそれぞれ有していたもので、また、⑩、⑪の各支出につき吹田市財務規則、吹田市事務処理規程により被告Fが議会事務局庶務課長として支出命令についての専決権限を有していたものと認められる。

3  しかしながら、⑧及び⑨の各支出に関し、秘書長の被告Dや市議会事務局庶務課長の被告Fは、支出負担行為、支出命令及び支出のいずれについても、権限の委任を受けたり、専決の権限を与えられていたとみるべき根拠、証拠は存しない。また、⑩及び⑪の各支出に関し、助役の被告B、市長室秘書長の被告D、秘書課長の被告Eが、支出負担行為、支出命令及び支出のうちの何らかの権限の委任を受けたり、専決の権限を与えられていたと解すべき根拠、証拠は見当たらない。

4  そうすると、⑧ないし⑪の各支出についての訴えのうち、⑧及び⑨の各支出についての被告F及び同Dに対する部分、⑩及び⑪各支出についての被告B、同D及び同Fに対する部分は、いずれも、不適法というほかない。

四  そこで、以下、⑧⑨の各支出についての被告A、同C、同B及び同Eに対する部分、⑩⑪の各支出についての、被告A、同C、同Fに対する部分について検討する。

普通地方公共団体の長又はその他の執行機関が、当該普通地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、当該普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、右事務に随伴するものとして、許容されるものというべきであるが、それが公的存在である普通地方公共団体により行われるものであることに思いを致すと、対外的折衝等をする際に行われた接遇であつても、それが社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、右接遇は当該普通地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を公金により支出することは許されないものというべきである(平成元年九月五日最高裁第三小法廷判決・判時一三三七号四三頁)。酒食等によるいわゆる接待は、それ自体が法二三二条一項の当該地方公共団体の事務に含まれるものではないが、かような限度においてのみ、右事務に当然伴うものとして、その費用のために公金を支出することができる、と解される。また、いやしくも、私的な飲食に公金が支出されてはならないのは当然のことであって、右の限度を判断するに当っては、現在の納税者の一般的な感覚に照らして各支出の具体的な内訳についても検討すべきものである。

そこで、⑧ないし⑪の各支出について、これらの支出に係る会合等の接遇が社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものであるかどうか、右接遇が儀礼の範囲を逸脱したものであった場合は、当該職員である被告らの財務会計行為が、それぞれの財務会計法規上の義務に違反する違法なものとして、右被告らが吹田市に対して損害賠償責任を負うかどうかについて検討する。

五 ⑧支出について

1 被告らの主張1(八)の事実については、原告は明らかに争わないので、原告においてこれらの事実を自白したものとみなし、右事実に、証拠(前掲各証拠、乙九(枝番を含む。)及び三〇)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(一) ⑧支出は、平成七年一〇月二〇日午後六時ころから大阪市北区所在の料亭芝苑において、吹田市側から市長、助役二名、企画推進部長、議会事務局長、市長室参事、吹田市操車場特別委員会正副委員長が、その相手方として、旧国鉄清算事業団の理事長、用地企画部部長、近畿支社長、近畿支社副支社長の合計一二名が出席して開催された会合の際の食費等の右料亭の費用を吹田市の一般会計予算の総務費の中の交際費から支出したものである。

(二) 右会合は、旧国鉄清算事業団の理事長らが大阪を訪問していたので、右理事長及び右事業団関係者を料亭に招き、旧国鉄の吹田操車場跡地の利用問題について、吹田市側の要望を伝え、それに関する協議をするために開催されたもので、右会合の際、そのような協議もされたが、それは、通常の勤務時間外の夜間、料亭内で飲食を共にし、歓談しながらのものであった。

(三) この会合の際の飲食費等の内容・価格は、料理が一人当り一万六〇〇〇円の会席料理(一二人分で一九万二〇〇〇円)、飲物が一本二〇〇〇円の清酒立山一二本、一本八五〇円のビールが一九本、二五〇〇円のウイスキー一本で合計四万二六五〇円であり、その合計は二三万四六五〇円となる。これに加えて、飲食代の一割及び二割に相当する席料二万三四六〇円とサービス料四万六九二〇円、更に税金一万八三〇〇円が必要であった。また、喫煙した者があり、その代金四八〇円も⑧支出中に含まれている。

このほか、出席者六人に手みやげとして持たせた昆布詰合は、一個三〇〇〇円(合計一万八〇〇〇円、消費税五四〇円)であった。また、この会合に際し、事業団側から四人、吹田市側から五人の運転手・随行員があったので、この食事代は合計二万五一〇〇円、駐車料金は合計三五〇〇円であり、いずれも⑧支出の中に含まれている。

(四) ⑧支出については、平成七年一〇月二〇日、被告Bの専決で支出負担行為がされ、同年一一月二〇日、被告Eの専決でその支出命令がされ、被告Cにより同年一二月一五日支出手続が採られた。

2 右認定事実によれば、右会合を開催すること自体は、吹田市の市政に関する事務処理のため必要がないとまではいえず、また、右会合を通常の勤務時間外に飲食を共にしながら料亭で行うことも、その当不当の判断は別として、吹田市長ら吹田市の関係者らの対外的折衝の過程で行われた接遇であって、社会通念上儀礼の範囲を逸脱したとまではいえず、その費用を吹田市の公金から支出することが違法であるとまでは断定できない。

しかしながら、⑧支出のうちの内訳の各支出については、その内容、料金額との関係で社会通念上儀礼の範囲を逸脱したか否かについて更に検討を要すべきものがあるといわなければならない。まず、料理及び飲物については、一人一万六〇〇〇円の会席料理や一本二〇〇〇円の清酒立山は、公費で賄われる料金としては相当高価な印象を免れることはできず、右会合の趣旨、出席者の顔触れ、会場等を考慮すると、飲食代金のうちサービス料と消費税等の税金相当額を含めて一人当り一万円を超える部分二〇万三三三〇円は、公費による接遇としては社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。また、このような目的の会合において、懇談後の手みやげを交付することまでは公費で賄われる儀礼の範囲を逸脱しているものであり、手みやげに係る一万八〇〇〇円分(六人分)及びこれに伴う消費税五四〇円も儀礼の範囲を逸脱しているというほかない。なお、その他の各支出については、一応社会通念上相当の範囲内のものといえないではなく、違法であるとは認められない。

そうすると、⑧支出のうち、二二万一八七〇円分は、違法な支出といわざるを得ず、吹田市は、この違法な支出によって右金額と同額の二二万一八七〇円の損害を被ったことになる。

3  そして、⑧支出のうちの右の違法な支出については、その支出負担行為の専決をした被告Bの行為がその裁量を逸脱したものとして違法であるというべきであり、同被告はこれにつき少なくとも過失があるというべきである。また、支出負担行為について本来的権限を有する長であった被告Aは、専決者の行為について監督すべき注意義務を有しているところ、自らも右の会合に出席し、⑧支出の内訳の具体的内容を知っていたものと推認されるから、少なくとも過失による監督責任は免れないというべきである。

しかし、右のように支出負担行為が一部違法であったとしても、右の支出負担行為に基づく法律関係が直ちに私法上無効となるわけではなく、むしろ、原則的には有効であって、会合終了後は、吹田市は料亭芝苑に右の会合の費用を支払う義務を負うことになるから、⑧支出について平成七年一一月二〇日された支出命令、同年一二月一五日された支出の各手続はいずれも適法であって、これを違法とすべき事由は認められない。

そうすると、⑧支出のうちの前記違法な支出については、被告A及び同Bが、吹田市に対して、二二万一八七〇円の損害賠償義務を負うもので、被告C、同Eについては、責任がないというべきである。

4  以上のとおりであって、原告の請求のうち⑧支出に係る部分については、被告A及び同Bに対し、各自、右二二万一八七〇円及びこれに対する支出の日の後である平成八年一二月一四日から支払済みまで民法の所定の年五分の割合による遅延損害金を吹田市に支払うように求める限度で理由がある。

六  ⑨支出について

1  被告らの主張1(九)の事実(ただし、(2)の会議の内容は除く。)については、原告は明らかに争わないので、原告においてこれらの事実を自白したものとみなし、右事実に、証拠(前掲各証拠、乙三、一〇(各枝番を含む。)、二六及び三一)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(一) ⑨支出は、平成七年一一月二六日午後五時ころから大阪市北区所在の料亭芝苑で、関西大学理事長、同学長、前北海道東北開発公庫副総裁(元大蔵官僚)、元中国管区警察局長、財団法人吹田市健康づくり推進事業団理事長、市長、教育委員長職務代理者、市長室参事ら八名が出席して行われた会合の際の食費等の右料亭等の費用を吹田市の一般会計予算の中の総務費の中の交際費から支出したものである。

(二) 吹田市においては、右会合に先だち、平成六年から年一回、吹田市政の円滑な運営に資する目的で、吹田市に関係のある諸分野の有識者を招いて懇談を行って自由に意見の交換を行うためであるとして、同年六月五日、財団法人吹田市健康づくり推進事業団理事長、北海道東北開発公庫副総裁(元大蔵官僚)、元中国管区警察局長、市長、教育委員、市長室参事ら六名が参加する懇談会が吹田市所在の料亭大川において開催され、会席料理(一万五〇〇〇円)や飲物代及び手みやげ等の費用として合計一六万五〇二三円が公金から支出された(これが②支出である。)。

(三) ⑨支出に係る会合は、右の懇談会の第二回目として、平成八年に行われたもので、この懇談会については、吹田市においては、平成六、七年度に特別減税が実施され、市税収入の減収が続く状況下での市政の円滑な運営に資するために、保健・健康・医療問題、文化・教育・学術・教養関係及び金融・財政状況その他政策課題の整理及び今後の方策について各界有識者により自由な意見を交換するために開催された、とされている。

(四) この懇談の際の飲食費等の内容・価格は、料理が一人一万六〇〇〇円の会席料理八人分合計一二万八〇〇〇円、飲物が一本八五〇円のビールが四本、ウイスキー二〇〇〇円、ブランデー(レミーマルタン)二〇〇〇円及び焼酎(吉四六)二五〇〇円の合計九九〇〇円で、その合計は一三万七九〇〇円となるが、これに加えて、飲食代の一割及び二割に相当する席料一万三七九〇円とサービス料二万七五八〇円、更に税金一万〇七五六円を要した。また、協議中に喫煙した者があり、この代金は六六〇円であった。

このほか、招いた有識者六人に手みやげとして吹田市側から交付した昆布詰合は一個三〇〇〇円(合計一万八〇〇〇円、消費税五四〇円)であった。また、この懇談会に際し、運転手二人が同行しており、同人らの食事代は一人二〇〇〇円の合計四〇〇〇円であり、この合計は二一万三二二六円となる。

2 右認定事実によれば、⑨支出に係る懇談会が開かれた趣旨は、吹田市においては、吹田市政の円滑な運営に資する目的で、吹田市に関係のある諸分野の有識者を招いて懇談を行って自由に意見の交換を行うというものであるが、⑧支出に係る懇談会と比較して、吹田市が挙げる目的があまりにも抽象的であって、吹田市の事務との関連性が希薄であるといわざるを得ない。また、吹田市において企画されたこの懇談会の目的に照らしても、参加者の顔振れは、関西大学の理事長及び学長が加わっただけで、その余の出席者は前年に行われた②支出に係る懇談会と同一であって、必ずしも相応しいかどうか疑問がある。

また、被告らは、右懇談会においては、(イ)生涯学習ニーズの専門化・高度化に対応できる体制づくりのための協力、(ロ)厳しい財政状況下における吹田市の人口の高齢化による行政需要の増大に対して最大の効果を得るため、今後、市が採るべき方策、市税収入の伸び悩む厳しい財政状況下における今後の景気の動向、安定した政策実現について財政上特に配慮すべき問題点などについて、出席者らから指摘を受けるなどした、と主張するが、前記認定のとおりの各出席者の顔振れ、場所が料亭芝苑において、しかも、一人当たりの飲食代も二万三七五三円という極めて高額なものであり、更に、招待客には三〇〇〇円もの手みやげさえ用意されていた(平成六年の懇談の際の支出も同様である。)などの諸点に照らすと、右主張のとおりの意見交換が具体的に行われたものとは認めるに足らない。

むしろ、前記の認定事実によれば、右懇談会の内容は、吹田市の事務とは無関係に各招待客に対する飲食の提供により純然たる懇親を図ることそのものに主たる目的があったものといわれても致し方ないのであって、そのような接待について、その費用を吹田市の公金で支出することは、社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものと解するのが相当であり、違法であるといわざるを得ない。

結局、吹田市は、違法な⑨支出によって、二一万三二二六円の損害を被ったことになる。

3 被告Bは、違法な⑨支出について支出負担行為を専決したもので、右支出負担行為は違法であって、前記認定事実、乙一〇の1、2および弁論の全趣旨によれば、同被告はその内訳の概要を認識していたと認められ、また、右支出の支出負担行為について本来的な権限を有する長であった被告Aは、専決者の行為について監督すべき注意義務を有しているところ、自らも右懇談会に出席し、これらの事情を知っていたと推認されるから、被告Bの支出負担行為の監督を違法に怠ったとの評価を免れることはできず、右各被告は、少なくとも過失があるというべきであり、吹田市に対し、⑨支出に相当する金員を賠償する義務を負うものというべきである。

これに対し、平成七年一二月一九日された被告Eの支出命令の専決及び同月二七日された支出手続は、すでに懇談会終了後、吹田市が料亭芝苑に対して支払債務を負うことになった後にされたもので、前判示の⑧支出の違法部分と同様の理由で、適法というべきであって、他にこれらを違法とすべき事由は見当らない。

4  以上のとおりであって、⑨支出に係る部分については、被告A及び同Bに対し、吹田市に対し、各自、⑨支出と同額の二一万三二二六円及びこれに対する⑨支出の日の後である平成八年一二月一四日から支払済みまで民法の所定の年五分の割合による遅延損害金を吹田市に支払うように求める限度で理由があり、被告C、被告Eに対する部分については理由がない。

七 ⑩及び⑪の各支出について

1 被告らの主張1(一〇)及び(一一)の事実については、原告は明らかに争わないので、原告においてこれらの事実を自白したものとみなし、右事実に、証拠(前掲各証拠、乙一一、一二、三二及び三三。いずれも枝番を含む。)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(一) ⑩支出は、平成八年六月二六日新大阪シティプラザで吹田地方新聞協会加入五社の代表である地方紙記者五名、市議会正副議長、前市議会正副議長、議会事務局長、議会事務局議事課長ら一一名が出席して行われた懇談の際の食費等の費用を、⑪支出は、同月二八日右同所で日刊記者クラブ加入六社のうち四社の日刊紙記者四名、市議会正副議長、前市議会正副議長、議会事務局長、議会事務局次長ら一〇名が出席して行われた懇談の際の食費等の費用を、それぞれ吹田市の一般会計予算の議会費の中の交際費から支出したものである。

(二) 吹田市においては、昭和四〇年代ころから、市議会の役員の改選により新役員が就任する際、市議会の新旧正副議長が、議会運営の参考にするため、吹田地方新聞協会加入の新聞社代表者と日刊記者クラブ加入の記者などの報道関係者を招いて、意見交換のための懇談会を行ってきた。

⑩及び⑪の各支出に係る右の各懇談会も、平成八年六月に吹田市議会で行われた役員の改選に伴って同様の趣旨で開催されたものである。

(三) 右各懇談が行われた新大阪シティプラザは、大阪府市町村職員共済組合が運営する施設であり、いわゆる高級料亭ではない。

(四) 右各懇談会の飲食費等の内容・価格は、⑩及び⑪とも、料理が一人七〇〇〇円の洋食コース(⑩支出は一一人分合計七万七〇〇〇円、⑪支出は一〇人分合計七万円)で、飲物が、⑩支出については一本四三〇円のビール(アサヒ)二六本一万一一八〇円、一本三〇〇〇円のワイン(マンズハーベスト)二本六〇〇〇円及び一缶二〇〇円のウーロン茶七缶一四〇〇円の合計一万八五八〇円、⑪支出については、前記ビール一六本六八八〇円、前記ワイン二本六〇〇〇円、一缶二〇〇円のオレンジジュース及びウーロン茶合計一一缶二二〇〇円の合計一万五〇八〇円で、飲食代は、⑩支出が一人当り八六八九円、⑪支出が八五〇八円であった。そして、サービス料、税金については、⑩支出がそれぞれ九五五八円、六三〇八円で、⑪支出がそれぞれ八五〇八円、五六一四円であった。

このほか、⑩及び⑪支出には、それぞれ二人ずつの同行した運転手の食事代として一人当り二〇〇〇円が含まれている。

2 右認定事実によれば、⑩及び⑪支出に係る懇談会が開催された趣旨は、市議会の新役員就任に際し、市議会の新旧の各正副議長が、議会運営の参考にする目的で、吹田地方新聞協会加入の新聞社代表者と日刊記者クラブ加入の記者などの報道関係者を招いて、市政全般についての意見交換をするというものであり、やや抽象的な目的ではあるが、公共的性格を有する報道関係者との懇談の必要性がないとはいえず、このような懇談会を行うことは、社会的儀礼の範囲内のもので、その決定権者の裁量の範囲内のもので違法とはいえないというべきである。また、その支出の内訳についても、公金からの支出としてはいささか高額の感は免れないものではあるが、社会的儀礼の範囲を逸脱した違法なものとするまでの具体的な支出は認められない。

そうすると、⑩及び⑪支出が違法であるということはできないから、右各支出についての原告の請求は、いずれも理由なきに帰する。

八  まとめ

1  以上のとおりであって、本件訴えのうち、被告らに対し①ないし⑦の各支出に係る損害の賠償を求める部分は適法な監査請求を経ていない不適法なものであり、被告F及び同Dに対し⑧及び⑨の各支出に係る損害の賠償を求める部分及び被告B、同D及び同Eに対し⑩及び⑪の各支出に係る損害の賠償を求める部分も、被告適格を欠く不適法なものであるので、以上の部分の訴えを却下する。

2  原告の請求のうち右1以外の部分については、被告A及び同Bに対し、四三万五〇九六円及びこれに対する⑧及び⑨の各支出後である平成八年一二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を吹田市に支払うよう求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却する(仮執行宣言はこれを付さないこととする。)。

(裁判長裁判官八木良一 裁判官北川和郎 裁判官和田典子)

別紙一覧表〈省略〉

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